株式会社TalentHub
大永 竜生
「売上至上主義」の採用市場を断つ。AI面接で個人のキャリアを正当に評価する起業家の原動力と、起業を加速させる創業融資
2026年3月2日
「AI面接」というアプローチを切り口に、採用におけるミスマッチや人材紹介市場の構造的な歪みに挑むスタートアップ、株式会社TalentHub。
代表の大永さんは、大手企業での原体験と、AIスタートアップ2社での事業開発・人事責任者としての経験を経て、既存の採用市場に対する強い「不条理」を感じ、起業。「売上至上主義で個人のキャリアが歪められる現状を変えたい」。 その強い想いはどのように培われたのか。
キャリアの変遷から、業界変革への感情の起点、そして創業期の融資に対する考え方を伺いました。
株式会社TalentHub 代表取締役 大永 竜生
株式会社シナモンにて、大手ゴム会社様向けの音声認識による会議議事録生成AIソリューション、大手鉄道会社様向け音声認識による業務効率化案件の事業開発案件に従事、同時に人事採用リーダーを兼務。その後、株式会社JDSCにて人事採用マネージャーとして、スクラム採用への移行と年間50~100名規模の採用を牽引した後、新卒採用の立ち上げや、評価制度設計、離職率低減等の施策立案~実行にも携わる。その後、株式会社JDSCにて人事採用マネージャーとして、スクラム採用への移行と年間50~100名規模の採用を牽引した後、新卒採用の立ち上げや、評価制度設計、離職率低減等の施策立案~実行にも携わる。
目次
1社目で感じた強烈な危機感は成長意欲からだった
interviewer:
まずは、大永さんのキャリアの始まりから教えてください。
大永さん:
大学卒業後は、衣食住という生活に密着した領域と知っているヒトが多いであろう大企業でという点で住宅設備機器メーカーへ入社しました。しかし、結果として半年ほどで退職し、当時まだ黎明期だったAI業界へ飛び込むことになります。そのきっかけは、成長への欲求でした。
大企業の新入社員の業務には、多くの雑務も存在します。成長に繋がるようなものもあれば、中にはどういった成長に繋がるか/本当に自分がそれをする必要があるのか見えづらいようなものも存在するというのが現実です。
interviewer:
ご自身の成長への紐づけを、より大事にされていたのですね。
大永さん:
はい。リクエストされる業務の中には、どういった課題に紐づいているのかあまり見えてこないようなものもありました。もちろん、数万人規模の組織を回していく上では、細かい業務も必要なピースであることは頭では理解していました。しかし、そうした業務に直面するたびに、強烈な危機感を覚えたんです。
ここで自分は一体、どれだけの成長曲線を描けるんだろうか?と。自分の成長スピードへの不安ですね。
だからこそ、もっと手触り感のある裁量権を持ちたい。そして、今はまだ海のものとも山のものともつかない状態で失敗してもよいから、上昇気流になる産業に身を置きたい。そう強く感じ、当時まだ、PoC(概念実証)という言葉ばかりが先行していた黎明期のAI業界へ飛び込むことを決めました。
interviewer:
自分の成長意欲への気づきを経て、次に選択したのが、AIスタートアップだったのですね。
大永さん:
はい。AIという技術は間違いなくこれから伸びる。そして、仕組み化された大企業ではなく、組織規模がまだ小さいスタートアップであれば、会社の成長と個人の成長をリンクさせ、その角度を最大化できると考えました。
事業開発として入社しましたが、途中から人事・採用領域も兼務するようになりました。その後、ご縁があって、AI関連事業を展開するJDSC社へ移り、そこでも採用や組織人事に関わらせていただきました。
数字に強い人事が直面した、「採用後の不幸」という現実
interviewer:
事業開発から人事へ。キャリアの軸足バランスが移っていく中で、どのような気づきがありましたか?
大永さん:
元々、数字に基づいて課題を分析し、打ち手を考えるプロセスが好きだったこともあり、人事という仕事は非常に肌に合っていました。採用パイプラインの管理や歩留まりの改善など、事業開発やマーケティングと同じ思考で取り組める面白さがあったんです。 しかし、採用活動を通じて、そして入社後の社員との面談を通じて、「入社した人が必ずしもハッピーになっているわけではない」という冷徹な現実に直面することになります。
interviewer:
「ハッピーになっているわけではない」とは?
大永さん:
面接の現場では、面接官と候補者のキャラクターの一致やその場のノリだけで採用が決まってしまうこともあります。明確なスキル評価やカルチャーフィットの基準がないまま、「なんとなく良さそう」で入社に至る。
しかし、入社後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月と定期面談を行っていくと、歪みが見えてくるんです。 現場では業務を回せているように見えても、実は本人は会社への不満を抱えていたり、疲弊していたりする。逆に、会社側が期待値を上げすぎて採用してしまい、現場でのパフォーマンスギャップに苦しむケースもある。
interviewer:
「なんとなく良さそう」採用が引き起こす、不幸なミスマッチですね。
大永さん:
そうです。そしてこの問題の根底には、採用企業側のスキル不足だけでなく、人材紹介市場の構造的な問題が深く横たわっていることに気づきました。 「なぜ、この人がこの会社に入ってしまったのか?」を突き詰めていくと、そこには資本主義の力学によって歪められたマッチングの構造があったんです。
資本の論理が、「個人のキャリア」を歪めている
interviewer:
人材紹介市場の構造的な問題について、詳しく教えていただけますか?
大永さん:
人材紹介会社のビジネスモデルの多くは、採用決定時の紹介手数料(一般的には決定年収の35%程)によって成り立っています。そのため「売上」と「回転率(いかに早く成約させるか)」を追わなければなりません。そうすると、どうしてもバイアスがかかってしまう。
例えば、ある候補者にとって、長期的なキャリア形成の観点からはC社がベストだとします。しかし、C社は選考基準が厳しく、内定が出る確率が低い。一方で、A社はとにかく人を欲しがっていて、内定が出やすく、しかも紹介手数料が高い。 この時、多くの人材紹介会社には、ビジネスとしてA社を強く勧めるインセンティブが働いてしまいます。
interviewer:
自社の売上効率が優先されてしまう構造があるわけですね。
大永さん:
もちろん、候補者に真摯に寄り添い、本質的なマッチングを追求している素晴らしい人材紹介会社さんもいらっしゃいます。しかし、私が観測してきた多くは、手数料率の引き上げを要求してきたり、売上至上主義で動いていたりするのが実情です。
私は、この構造的な「不条理」に対して、やや怒りに近い感情を持っています。 強い個人は自分でキャリアを切り拓きやすいかもしれないが、キャリアに迷いがあったり、ここからキャリアを拓いていきたい方々が、こうした構造の犠牲になっていると捉えています。
個人のキャリアが、誰かの売上のために歪められていいはずがないんです。
AI面接『TalentScan』は、市場を変えるための「第一手」
interviewer:
その想いが、TalentHubの創業、『TalentScan』サービスの開発につながっているのですね。
大永さん:
まさにです。『TalentScan』は、音声対話型のAI面接サービスです。候補者に対してAIが適切な質問を投げかけ、その回答内容からスキルレベルや特性を定量化・可視化します。
まずはこのツールによって、候補者の「現在地」を客観的なデータとして明らかにすることから始めます。人間による面接はどうしてもバイアスがかかりますが、AIであればフラットに評価ができる。 その上で、将来的にはこのデータを基盤としたマッチングプラットフォームを構築し、人材紹介市場そのものを変革したいと考えています。
interviewer:
サービスの提供先として、人材紹介会社の方々から強いニーズがあるように感じますが、そういった引き合いは多くないですか?
大永さん:
はい、よく言われます。「既存の人材紹介会社に使ってもらえば、もっと早くスケールするじゃん」と(笑)。 しかし、現在の市場構造のままで彼らに提供してしまうと、既存のビジネスモデルを補完するだけのツールになってしまい、本質的な課題解決になりません。
interviewer:
なるほど。大永さんのお話を聞いていると、強い正義感のようなものを感じます。
大永さん:
曲がったことはするなという親の教えが、骨の髄まで刷り込まれているんだと思います(笑)。 ただ、会社員である以上、組織の論理や政治的な事情で、明らかに正しい提言が通らない瞬間がある。データを見ればそこで働く人が不幸になっているのが分かるのに、資本の論理に屈して飲み込まなければならない。その無力感と悔しさが、今の原動力になっています。
自分の会社であれば、誰かの顔色を伺って信念を曲げる必要はありません。たとえリスクを背負ってでも、自分が正しいと思う方法で挑戦したいんです。
interviewer:
ご自身の原動力を理解して、より駆動する環境や方法を選択した起業なのですね。
貴社サービスについて、候補者の方向けを磨きこまれているフェーズでしょうか?
大永さん:
はい。そして、人材紹介企業さま向けについて、私たちが得たデータや情報は、想いを同じくする方々には開放していきたいと考えています。 売上至上主義ではなく、真に候補者のキャリアを考える人材紹介企業さまが報われる仕組みを作る。それが、私がこの事業をやる意義だと思っています。

「時間を買う」ための創業融資、起業を加速するパートナーによる支援
interviewer:
今回、その挑戦のスタートラインとなる事業立ち上げのための、創業融資のご支援を弊社にご依頼いただきました。
大永さん:
はい、貴社にご依頼した理由は「スピードと時間を買った」という感覚です。
私自身、ファイナンスの知識が豊富だったわけではありません。事業計画書の作成や公庫との折衝など、自分で調べて一からやることも物理的には可能だったかもしれません。今はAIもありますしね。 しかし、創業期のリソースは極めて限られています。ただでさえ、プロダクト開発や顧客ヒアリングに奔走している中で、慣れない資金調達の実務に時間を割くのは得策ではないと判断しました。
interviewer:
結果、事業に集中できたでしょうか?
大永さん:
はい、おかげさまで。餅は餅屋と言いますか、その道のプロにお願いして最短最速で資金を調達し、自分は事業の立ち上げに100%のリソースを注ぐ。 もし自分でやって手続きに不備があったり、判断に迷ったりして1ヶ月、2ヶ月と遅れたら、事業にとっては致命的なリスクになりますので。
interviewer:
実際にINQの支援を受けてみて、印象に残っていることはありますか?
大永さん:
レスポンスの速さが非常に印象的でした。私自身もスピード感を重視していますが、INQさんはこちらのテンポに合わせて、あるいはそれ以上の速さで返してくれました。 また、日本政策金融公庫との面談当日に同席していただけたのも、非常に心強かったですね。結果として、希望通りの時期に、希望通りの金額を調達することができました。
interviewer:
ありがとうございます。どのような起業家に、我々のようなパートナーが必要だと思われますか?
大永さん:
ファイナンスの知識に自信がない人はもちろんですが、事業の垂直立ち上げを狙っている人に、おすすめしたいです。 自分でやってみて迷ったり手戻りしたりする時間があるなら、そのコストを払ってでもプロに任せるべきです。創業期の時間は、お金以上に貴重なリソースですから。これから戦場に向かうのに、武器の手入れに時間を使いすぎて戦う前に疲れてしまっては意味がありません。
国境を越えて、「個」が正当に評価される世界へ
interviewer:
最後に、TalentHubが描く未来のビジョンについて教えてください。
大永さん:
短期的には、まず『TalentScan』をAI面接のデファクトスタンダードにしていきます。AI面接という技術自体は模倣可能かもしれませんが、中途採用においてスキルを可視化・定量化するという観点において非常に優れており、他社様と比較検討いただくケースにおいて弊社を選択いただくケースが出てきております。また技術的に中途採用の方が難易度が高く、そこで培った技術要素を新卒や有期雇用にも応用できることが分かり新卒での利用ケースも出始めました。現時点の技術優位性を武器にスピード感を持って市場シェアを取り、圧倒的なデータを持つことで、他社が追いつけない更なる強みを構築できると考えています。
そして中長期的には、人材紹介領域へ踏み込みます。「売上」ではなく「真のマッチング」を追求するプラットフォームを構築し、個人のキャリアが正当に評価される世界を作ります。
interviewer:
グローバル展開も見据えているそうですね。
大永さん:
はい。 AI面接は、言語や国境の壁を越えてスキルを定量化できます。世界中の優秀な人材が、日本の企業とマッチングされる。逆に、日本の人材が世界へ飛び出す手助けもできる。
国境という概念が溶け、純粋にスキルとカルチャーで人と企業が結びつく世界を作りたいと考えています。
資本の論理で歪められている一部の採用市場を正し、個人が自らのキャリアを主体的に描ける世界の実現を目指し、不条理な構造に風穴を開けていきます。
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※本記事は、取材時点の情報です
※インタビュアー・編集:株式会社INQ 遠藤 朱美
※デザイン:高橋 亜美
▼本プロジェクトのコンサルタント担当者

八幡 芹菜
1992年和歌山県生まれ。
慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、みずほ銀行に入社。中小企業から上場企業まで幅広く融資業務を担当。事業承継や上場維持対応、海外展開支援に取り組む。好奇心とフットワークの軽さには定評あり。音楽、フェス好き。週末は子どもとお出かけ。年子2児の母。