株式会社Datable

高松 智明

SaaS企業の連携課題をノーコードツールで解決「プロダクト開発に集中できたのは融資のおかげ」

2022年12月22日

働き方改革やDX推進、リモートワークの浸透によって、日本企業の間での導入が加速したSaaS(*1)。普及に伴い、SaaS同士の連携機能の強化が求められるようになりました。

*1) ソフトウェアをインターネット上で利用できるようにしたサービス

株式会社Datable(データブル)はSaaSを提供する企業が、自社プロダクトと他社ツールとのインテグレーション(連携)開発を「早く、安く、簡単に」行えるノーコードツール「datable」を提供。ユーザー企業の連携ニーズに応えられるようになり、幅広い顧客層へのサービス販売を実現します。

同社の設立は2020年2月。代表取締役CEOの高松さんは、技術コンサルタントとしてさまざまな企業のプロダクト開発を支援する中で、Datableのアイデアを思いついたそうです。その後、融資による資金調達を活用しながらサービス開発に着手し、2022年9月に正式リリース。複数のベンチャーキャピタルや個人投資家から2.25億円の資金調達を実施しました。

「融資を利用したから、プロダクト開発と大型の資金調達を実現できた」と話す高松さん。本インタビューでは創業期の資金繰りの課題やサービス開発に至る経緯、今後の展望などを聞きました。

代表取締役CEO 高松 智明さん
2020年株式会社Datable創業。早稲田大学理工学研究科修士卒。Datable創業前は、楽天株式会社でビックデータを用いた広告プロダクトの開発、株式会社Housmartで取締役CTOとして、不動産データを用いたプロダクトの開発、組織構築を経験。経営/CTOの経験を活かし、複数の企業に技術顧問として携わる。

インタビュアー:若林 哲平
株式会社INQ代表取締役CEO、行政書士法人INQ代表。1980年生まれ。青山学院大学経営学部卒。融資サポートを中心に、さまざまな領域のスタートアップのシード期の資金調達を支援。年間130件超10億以上の調達を支援するチームを統括。行政書士/認定支援機関。

資金繰りに課題を持っていた創業時に融資サポートを利用し1,500万円の調達に成功

ーーまずは、創業時の資金調達の課題について聞かせてください。

資金繰りに関しては、課題だらけでした。創業融資という制度があることは知っていたのですが、自分がどれくらい借りられるのか、どういった手続きを踏めば借りられるのかといったことは全然分からなかったので、融資サポートの利用を検討しました。

ーー INQの他に、融資サポートについて相談したことはありますか。

INQさんに相談する前に、創業融資サポートを行う事務所に相談したことがあります。でも、スタートアップの支援に慣れていない印象を受けたので、依頼はしませんでした。

その後、ネットでINQさんのことを知ったので問い合わせたところ、オフィスは渋谷ですし、話してみるとIT業界やスタートアップにも詳しい。やりとりもFacebookメッセンジャーを使ってスムーズにできたので、サポートをお願いすることに決めたという流れです。

ーーありがとうございます。相談いただいたのは会社設立前でしたね。

はい。設立のタイミングについても相談したことで、1,500万円という創業期にしては大きめのデット(融資による資金調達)を成功させられたんです。

創業期でも最大2,000万円の融資を受けられる経営力強化資金(*2)という制度がもうすぐ終わるということを教えてもらい、急いで法人登記を進めたのを覚えています。

*2) 詳細は日本政策金融公庫のサイトを参照。現在の制度についてはこちらの記事で解説しています。

ーー高松さんの経歴であれば1,000万円以上の融資が可能だと思ったので、いいタイミングでの相談でした。詳しくは後で聞きますが、創業後にピボット(方向転換)しているんですよね。

はい。創業時に作ったプロダクトがうまくいかなかったので、コンサルティング業をしながら事業アイデアを考え、datableを作ったという流れです。

INQに期待していたのは、サポートによる融資金額の最大化

ーーピボット後、日本政策金融公庫や銀行から融資を受ける際にもサポートを利用いただきましたが、自分たちだけで融資を申し込もうとは思いませんでしたか。

自分たちだけでやろうとは思いませんでした。手間を省きたいというよりも、できるだけ大きい金額を借りたかったので。

サポートなしでは、融資の調達金額を最大化する方法が分からないため、2回目以降もプロであるINQさんにお願いしました。

ーー創業の約2年半後、2022年に2.25億円のエクイティ(株式発行による資金調達)を実施していますが、創業期や、これまでにエクイティを行わなかった理由があれば教えてください。

エクイティを使うと、どうしても投資家から急成長を求められる傾向にありますよね。

自分としては、事業の形が見えていない段階でのエクイティは、投資家からの期待に応えられる自信がないため、怖くて使えませんでした。

ーー初めてのエクイティで億単位の調達は珍しいと思いますが、最初からそのくらい調達する予定だったのでしょうか。

最初はもう少し小さい額で調達を予定していましたが、投資家からの反応が良かったので、足元の市況感などを踏まえて金額を上げることにしたんです。

私を含めて、エンジニアの経験やスタートアップの経営経験があるメンバーがいたことがプラス評価に繋がったのだと思います。

ーー調達の成功に、融資が役立った面はありますか。

もちろんです。融資のお金があるおかげで、プロダクト開発に集中できましたから。

融資の資金だけで半年くらいは生きていける見込みがあったので、当時やっていたコンサルタント業務の量を絞りながら、プロダクト開発にコミットしていきました。

コンサル業を行いながら新規プロダクトを開発するにはリソース的に限界があるので、融資に助けられましたね。

ーー新規事業立ち上げの理想的な流れに感じました。INQの融資サポートをどのような企業に薦めたいと思いますか。

自分のように、技術力を磨いてきた人や、特定の分野で経験を積んできた人です。自分の経験とINQさんのサポートがシナジーを発揮して、満足できる金額を調達できると思います。

まずは自分のスキルを武器に、コンサルや受託で稼ぎながら現場ニーズを掴むといいでしょう。現場業務の経験はプロダクト作りに生かせますので、急がなくてもいいと思います。

そして、実績を元に融資を利用すれば大きな額を調達できます。それを元手にすれば、プロダクト作りに集中できるのではないでしょうか。

ーー確かに、稼ぐ力があって業界や顧客のニーズを掴んでいれば、資金調達の際にも説得力があり有利です。INQのサポートに点数を付けるとしたら、10点満点中何点でしょうか。

10点です。創業初期にまとまったお金を融資で調達してチャレンジできましたし、融資のおかげでdatableの開発に集中することができました。

ーー10点とは嬉しい限りです。プロダクト開発に集中できて、追加融資も決まるという良い流れができて良かったですね。

エンジニアとして楽天に入社後、さまざまなプロダクトの開発責任者や技術顧問を歴任

ーーここからは、高松さん自身について聞かせてください。早稲田大学理工学部を卒業後、院に進んだのですね。

先進理工学研究科に入り、東芝の関連会社と共同で電磁シミュレーション手法の開発などを研究していました。送電パイプなどの電気設備を実際に作る前にシミュレーションするソフトを作るという、かなりマニアックな研究です。

ーー卒業後は東芝ではなく、楽天にエンジニアとして入社したそうですね。

いつかは起業したい思いがあったので、就職活動では新興のIT系企業を受けました。

東芝のような企業に入社した場合、じっくりと腰を据えて働くイメージがあったので、起業には不向きかと思ったんです。一方、IT系であればエンジニアから起業するチャンスがあると思い楽天で経験を積もうと決めました。

ーー楽天ではどのような業務を担当していましたか。

ビッグデータを利用したマーケティング系プロダクトの開発です。

例えば、楽天のサイトに溜まっている膨大なアクセスログを解析して、ユーザーにマッチした広告を出すレコメンド型の広告や、広告効果を測定するプロダクトの開発などに携わりました。

ーーその後、株式会社Housmart (ハウスマート)に入社してますね。

最初はエンジニアとして入社し、途中からは取締役CTOとして、不動産データを用いたプロダクト開発や、エンジニア組織の構築などを担当しました。

ーーもともと「いつかは起業」という思いがあったとのことですが、起業を目指すきっかけがあったのでしょうか。

おそらく経営者である父親の影響です。働く父親の姿を子どもの頃から見てきたので、自然と起業を目指すようになったんだと思います。

実際の起業タイミングとしては、ハウスマートでのプロジェクトが一段落して軌道に乗り、自分が抜けても大丈夫だと思ったタイミングで独立を決めました。

ーーピボットしてdatableをリリースしたという点をもう少し詳しく聞いてもいいでしょうか。最初はどのようなプロダクトを開発していたんですか?

元々は、リモートワークをサポートするツールを2020年の5月にリリースしています。ちょうど新型コロナが最初に流行した時期ですね。

過去に自分のチームにリモートワークを導入したことがあって、そのときに感じた課題を解決できるツールがあればいいな、と思い開発したものです。

ーーリモートワークが浸透し始めた時期なので、追い風のタイミングだと思いましたが。

ZoomやGoogleMeetが追加機能をリリースしたり、類似サービスが数多く登場したりしたことで埋もれてしまい、マネタイズに至りませんでした。

私たちより1年ほど早く開発に着手していたoVice(オヴィス)は勢いに乗れていたので、

開発を始めるのがもう少し早ければ違ったかもしれません。

datableはSaaS企業の課題を解決「手間のかかる開発コストを圧縮し、顧客の連携ニーズに対応できる」

ーー次に、datableについて教えてください。

datableは、SaaSを提供する企業のインテグレーション開発を支援する、ノーコードツールと運用サポートサービスです。

例えばSaaS企業が自社プロダクトを販売する際に、ユーザー企業から「SalesforceやHubspotと連携したい」という要望があったとします。自社プロダクトが連携機能を備えていない場合の選択肢は、機能の追加を断るか、コストをかけて開発するかの2択です。

他社ツールとの連携機能を追加したい場合、API(*3)が公開されていればそれに頼ることが可能ですが、そうでない場合は開発が必要になるため、コストが発生します。

*3) ソフトウェアやプログラム同士をつなぐインターフェース

datableを使えば、低価格かつスピーティーに、自社プロダクトに他社ツールとの連携機能を追加することができます。

ーーSaaSの普及に伴い、SaaS同士の連携が求められるようになってきた中、ニーズを把握したプロダクトだと感じました。サービスを思いついたきっかけがあれば教えてください。

先ほど話した最初のプロダクトがマネタイズに至らなかったため、5〜6社ほどのSaaS企業に対して、技術コンサルティングをしていました。

クライアントと向き合う中で分かったのが、他社ツールとのインテグレーション開発に課題を抱えていること。開発にはコストがかかるのはもちろん、継続的なメンテナンスも必要になるため、機能追加に踏み切れない企業が多かったんです。

「この状況に何かソリューションを提案できないか」と考えたのが、サービスを思いつくきっかけになりました。

ーー現場を知っているエンジニア起業家が取り組んだからこそ、形にできたのだと思います。実際にdatableを提供してみて、企業からの反響はどうでしょうか。

datableを導入したことで、セールス時の反応が変わったという声をいただきました。

先ほどお伝えしたような、ユーザー企業側の連携ニーズに応えられるのはもちろん、アップセルとしてインテグレーションプランを用意して、売上単価を上げる使い方もしてもらっています。

ーーユーザー企業としても、新たに導入するSaaSが既に使っているSaaSと連携してくれると、データの確認や入力などの手間が減って助かりますよね。

SaaS同士の連携の課題は元々あり、2010年代後半にはそのソリューションとしてiPaaS(*4)が日本でも一部で使われ始めたのですが、アメリカなどと比較するといまいち盛り上がりに欠ける雰囲気でした。

*4) 複数のクラウドサービスをクラウド上で連携・統合するサービス

日本におけるSaaSの導入率はアメリカよりも5年ほど遅れているともいわれるため、日本のマーケットには早かったのかもしれません。

リモートワークの普及もあり、ここ数年で日本でもSaaSの導入が急速に進んだことで、SaaS同士の連携ニーズが顕在化してきたのだと思います。

SaaSの組み合わせによるレバレッジ効果を提案していきたい

ーー最後に、今後の展望について聞かせてください。

「SaaSは生産性の向上に役立つもの」ということは認識されていると思いますが、私たちはSaaSを組み合わせて使うことによる、さらなる効率化に注目しています。

今後もSaaSに寄り添い、便利機能の実装などサービスを拡充しながら、SaaSの組み合わせによるレバレッジ効果を提案していきたいです。

ーー日本全体の生産性向上に繋がるといいですね。今後の発展に向けて、採用を強化しているポジションはありますか。

エンジニアです。私たちのやっていることはPaaS(*5)の開発のような、技術的には結構大変な領域ですので、スキルを持ったナイスなエンジニアからの応募をお持ちしてます。

*5) アプリケーションを実行するためのプラットフォームを提供するサービス

ーー高松さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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