株式会社ジパンク
兵藤 佑哉
創業初期に1,200万円の融資に成功「融資に頼ったからこそ腰を据えて事業アイデアを練ることができた」
2022年12月8日
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、リモートワークという新しい働き方が普及しました。
しかし最近では、生産性の低下などを理由にリモートワークを縮小・廃止する動きも見られます。
「生産性低下の理由はリモートワークそのものではなく、従来型のコミュニケーション方法を
アップデートしていないことにある」と話すのは、株式会社ジパンクの代表取締役・兵藤 佑哉さん。
同社はリモートワークにおけるコミュニケーションの非効率を改善するツールとして、
ビデオメッセージSaaS「Quden(クデン)」を提供しています。
ミッションは「『働く』をもっと自由に」。
Qudenを通じて一人ひとりのライフステージやライフスタイル、
個性に応じてベストな働き方ができる社会づくりへの貢献を目指しています。
同社は2022年2月にはQudenを正式リリースし、One Capitalから5,000万円の資金調達を実施するまでに至りましたが、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかったといいます。
本インタビューでは創業初期の資金調達や、Qudenが生まれるまでの試行錯誤について、代表取締役の兵藤さんに話を聞きました。
代表取締役 兵藤 佑哉 さん
Qudenの事業戦略やUX/UIデザイン、ビジネスサイド全般を担当。1993年生まれ。京都大学経済学部卒。新卒で三井物産に入社後、スタートアップスタジオを経てジパンクを設立。趣味は米大学アメフト観戦。
インタビュアー:若林哲平
株式会社INQ代表取締役CEO、行政書士法人INQ代表。1980年生まれ。青山学院大学経営学部卒。融資サポートを中心に、さまざまな領域のスタートアップのシード期の資金調達を支援。年間130件超10億以上の調達を支援するチームを統括。行政書士/認定支援機関。
創業初期は受託開発で資金繰り「資金調達については疑問や不安でいっぱいだった」
ーー最初から立ち入った内容になりますが、創業初期の資金繰りに関してはどのようなプランを描いていましたか。
創業初期はまだ自社で事業を持っていなかったので、受託開発をして売上を積み上げていました。
それと併せて、創業融資(*1)や制度融資(*2)など、金融機関からの借り入れで資金を確保しながら新規事業を作っていこうというプランを描いていました。
*1) 日本政策金融公庫が取り扱う、創業2期以内に無担保無保証で利用できる融資制度。
正式名称は新創業融資。
*2) 自治体・金融機関・信用保証組合が連携して実行する融資
ーースタートアップの資金調達方法としては借り入れの他、株式発行などによる資金調達もあると思いますが、選択肢として検討しませんでしたか。
いわゆるプレシードラウンド(創業前後のアイデア段階にあるスタートアップへの投資)での資金調達ということですよね。まだ事業アイデアが固まっていない状況でしたので自分達にフィットした事業アイディアを見つけるまでは外部投資家に株式を渡さずに検証したいという思いがありました。
ですので、この時点ではエクイティファイナンス(株式発行による資金調達)は検討していませんでした。実際、事業アイデアが固まるまでに時間がかかってしまったので、このときデットファイナンス(金融機関からの借り入れによる資金調達)を選んでおいて正解だったと思います。
ーー起業前に資金調達について調べましたか。
資金調達方法についてはいろいろと調べてはいましたが、自力で調べて計画を立てることに限界を感じていました。例えば「創業融資がいいらしい」という情報を見つけても、自分でも借りられるのか、何が必要なのかといったことまでは分かりません。
そんな中、Twitterの投稿がきっかけでINQの若林さんに相談する機会を得られました。相談する中で融資の疑問や不安を解消できたので、資金調達のサポートもお願いすることになりました。
ーーありがとうございます。資金調達のサポートでは、INQにどのようなことを期待していましたか。
スタートアップを理解してくれることですね。融資に詳しくても、スタートアップに理解がない方だと話が噛み合わないことがあったので。その点INQさんはスタートアップのフェーズによる打ち手を、同じ温度感で相談に乗ってくれたので、まさに期待通りでした。外部コンサルタントというよりは、資金調達のために伴走して手伝ってくれるパートナーのような存在だったと思います。
ーーINQに資金調達のサポートを依頼して良かったと感じたことはありますか。
大きく分けると2つあって、1つ目は弊社と金融機関をスムーズにつないでいただけたことです。INQさんは既に金融機関との関係性ができているので、金融機関への申込みや面談をスムーズに進めることができました。
もう1つは、転ばぬ先の杖として、事前に知っておいた方がよい情報を教えたくれたことです。例えば自分の信用情報を確認できるCICなど、自力で調べるには時間がかかるような部分を教えていただけました。大幅に工数を削減することができ、非常に助かりました。
ーー日本政策金融公庫(以下、公庫)の創業融資と制度融資、合わせて1,200万円の調達に成功しましたね。
アイディアの検証期にデット(ファイナンス)で調達できたのはありがたかったです。INQさんと相談しながら申請や審査を進められたので、やり切れたのだと思います。
ーー兵藤さんもCTOの太田さんも、Webマーケティングや開発で稼ぐ力をお持ちでしたので、融資でレバレッジを効かせられたのではと分析しています。資金調達を振り返って、どのような企業にINQをおすすめできますか。
スタートアップの事業を理解してくださるので、スタートアップ企業に広くおすすめできると思います。
特に、、私たちのように事業アイディア検証期のスタートアップ企業におすすめしたいです。検証期はアイディアがボツになったり計画が根本的に変更になることが頻繁に発生するので、検証やアイデアを形にするためのプロダクト開発に集中できたのはありがたかったです。
ーー2022年2月にシードラウンド(成長段階にあるスタートアップへの投資)で5,000万円の資金調達をされましたね。
Qudenをしっかり伸ばすぞ、という目的の今回の資金調達ですが、前述のようにそこまで1年半ほど受託開発やアイディア検証をしていました創業融資と制度融資、そしてそれぞれの追加融資がなければ資金繰りが回らなくなっていたと思います。踏ん張って事業を続けてこれたのも、これらのデットファイナンスによる部分が大きいと考えています。
大学卒業後は総合商社に入社「大企業を辞める不安はなく、むしろ気軽に起業した」
ーー時系列をさかのぼることになりますが、起業のきっかけについて教えてください。
起業のきっかけについては、聞かれるたびに自分の中でも答えが変わってきているのですが、学生時代から漠然と頭の中にあったと思います。
元々、高校と大学でアメフトをやっていました。大学生活の終盤には、母校の高校のアメフト部のコーチ兼監督を任されていて、チームのマネジメントがとても楽しかった経験から「仕事でも組織やカルチャーをゼロから作り上げてみたい」と思うようになりました。事業を創ることについては当然なんのスキルや経験もありませんでしたが、無知ゆえに「学習しながら頑張ったらどうにかなるんじゃないか、楽しそうだし」と楽観的に考えていました笑。
また、指示されたことをそのまま実行することよりも、どうやったら上手くできるか戦略を考えたり、人を巻き込みながら仕組みを作ったりすることが自分の得意領域だという自覚があったのも大きいと思います。
ーー大学卒業後は総合商社に入社されましたが、大企業から独立することに対する不安はありませんでしたか?
仮に起業に失敗しても死ぬわけではないので不安はありませんでしたね。むしろ新卒で入社した会社を一人前になる前に退職する申し訳なさや、今後結果を出すことでお世話になった方々に対してせめてもの恩返しをしないとという気持ちの方が強かったです。
本来起業は目的のための手段でしかないのですが、当時は「起業してゼロからプロダクトと組織を作ってみたい」という気持ちが強かったです。ですがこの時からもっと働きやすい社会にしたいという現在の弊社のミッションに通じる想いは抱いていて、漠然と目指したいゴールがあるなら挑戦しようという感じだったと思います。
起業したときは事業が決まっていなかった
ーー起業時に事業のアイデアはなかったということでしたが、アイデアを考えるにあたってどのように動いていましたか。
最初は「強制力を働かせればどうにかなるのでは?」と思って、起業2日後にアクセラレータ(スタートアップ企業を資金やノウハウ面でサポートする組織)の面接を入れました。
行きの電車で共同創業者の太田と事業アイデアを考えて、資料も無い状態でピッチ(短いプレゼンテーション)しましたが、さすがにダメでしたね(笑)
ーーそこからは、さまざまな事業アイデアを考えられていたそうですね。軸のようなものは持っていましたか。
じっくり腰を据えて事業アイデアを考えようと思い、3つの軸を決めました。1つ目は「自分たちが10年かけて取り組みたいもの」、2つ目は「自分たちがソリューションを作れるか(ケイパビリティ)」、3つ目が「マーケットのポテンシャル」です。1年以上かけて、この3つのベン図が重なる部分を探していました。
ーーQudenのアイデアに行き着くまでに、どのくらいのアイデアを考えましたか。
実際にwebページを公開したりセールスで検証したアイディアは10個以上はあり、。例えばシルバー向けサービスなどは長い期間検証しました。シルバーマーケットは何兆円もあるマーケットなので言うまでもなくポテンシャルがあり多くの非効率が存在します。しかし高齢の方や葬儀会社といった専門家にヒアリングを重ねていく中で当初想定していたよりもwebサービスでのリプレイスが困難な現状や高齢の方のITリテラシーといったクリアしなければいけない問題が多いこともあり、私たちの実力不足で課題に対する適切なソリューションを見出せず事業展開には至りませんでした。
受託開発におけるコミュニケーションの課題からQudenが生まれた
ーーその後どのようにQudenのアイデアが生まれたのでしょうか。
先ほどもお伝えしましたが、事業アイデアを考えながら受託開発をして売上を立てていました。この受託開発には生計を立てる以外にも顧客基盤を作ることや当時ターゲットにしていたマーケットの理解を深める目的もありました。コロナ前はトラベル領域でOTA(オンライン旅行予約サービス)を検討しており、その時期はリゾートホテルをクライアントにwebマーケティングのコンサルやシステム開発を請けていました。
そんななか受託開発の顧客が増えるにつれ、顧客とのやり取りにおける非効率を感じるようになりました。受託開発は常駐などはせず、非対面でコミュニケーションを行います。ビデオ通話などの同期的なコミュニケーションばかりやっても開発が進みませんし、ドキュメント共有などの非同期コミュニケーションは有効ですがニュアンスやその結論に至る文脈が不明瞭で理解にコストを要していました。
そのとき、「非対面のクライアントコミュニケーションををもっと効率的にできるのではないか」という課題を持ったのが、Qudenのアイデアが生まれるきっかけになりました。
ーー起業してすぐに新型コロナウイルスが蔓延したと思いますが、コロナの影響もありますか。
コロナの影響も大きかったですね。コロナでリモートワークという働き方が普及しました。リモートワークでは働く場所がバラバラになりますし、社内だけでなく社外とのやりとりも電話が通じにくくなったりと既存の手法がマッチしない状況に変化しました。、リモート下の業務コミュニケーション手段としてビデオ会議や電話、メールやドキュメントへのコメントといったものがあるかと思いますが、いずれの手段も一長一短であり、働き方のニューノーマルにおける新しいコミュニケーションが必要だと感じたのもQudenを開発したきっかけです。
Qudenは動画でコミュニケーションを完結「チャットやビデオ通話に並ぶツールとして活用してほしい」
ーーQudenについて、どのようなサービスか説明していただけますか。
Qudenは画面の挙動を口頭で説明した録画、いわゆるビデオメッセージを顧客対応に活用することでカスタマーエンゲージメントを引き出すサービスです。。具体的には問い合わせ段階の顧客に個別のデモを見せる、自社サービスユーザー向けのテクニカルサポートに活用するなどセールスからカスタマーサポートまで広くご活用いただいております。
コミュニケーションのそもそもの話になりますが、何かを伝える方法は同期と非同期の2つの方法に分けられます。同期はビデオ通話などで、非同期はチャットやメールです。Qudenは非同期かつ動画という方法を採ることによって、「いつでも」「好きな速度で」「繰り返し」見られるという非同期の魅力と動画の表現力を併せ持つコミュニケーション方法を実現しました。
またQudenにはzoom連携機能(2022年10月リリース予定)があり、zoomの録画を自動でQuden上に保存することができます。その他動画ファイルのアップロードにも対応しているので、日々生まれる動画アセットの管理・活用がしやすい点も特徴です。
ーー画面録画して動画を共有するのとは、どのような違いがありますか。
画面録画はZoomやOSに搭載されている機能でもできますが、Qudenにはビデオメッセージでコミュニケーションを完結させるための全ての機能が含まれている点が特徴です。例えばビデオメッセージをURLで共有できる、公開範囲を柔軟に設定できる、外部サービス連携といったビデオメッセージを業務に組み込むための機能が充実しており、またスムースで気持ちよい利用体験づくりにも注力しています。
このような取り組みを通じて、私たちはQudeenをチャットやビデオ通話に並ぶコミュニケーションツールとして活用してもらえるものだと考えています。
ーー私も最初は「動画マニュアルを簡単に作れるツール」という認識でしたが、使ってみるとすぐに「これはコミュニケーションツールだ」と感じました。どのようなユースケースを想定していますか。
ユースケースは主に3つあります。
1つ目はセールスです。実際の活用例を挙げると、見込み顧客から自社サービスに問い合わせがあった際に、その内容や見込み顧客の業種などの属性を踏まえた簡易的なデモ動画を作成しメールで送付するといった使い方です。
これにより従来の資料と文面ベースのアプローチに比べ商談化率が1.5倍になった事例もあり、このようにセールスに組み込むことで顧客のプロダクト理解を深めエンゲージメントを高めることができます。
2つ目がカスタマーサポートです。自社サービスの使い方への問い合わせに対するテクニカルサポートのような1to1(オーダーメイド)のビデオメッセージで使うことでより効率的な問題解決が図れる他、いわゆる動画FAQのような形でよくある質問を動画コンテンツにしまとめて共有するといった活用も可能です。
3つ目はプロダクト開発でエンジニアやデザイナーが用いるイメージです。例えばデザイナーがこれまでスクショとテキストで伝えていたデザインファイルの変更点の説明にQudenを使えば、都度のオンライン会議を設定する必要もなく抽象的な部分も効率的に伝えることができるようになるはずです。
この他にも社内の情報共有やマニュアルなどさまざまな場面でQudenを活用できると思いますが、自分たちがやりたいのはビデオメッセージをコミュニケーションのスタンダードにすることです。
多様な働き方を広めて「やりたいことや挑戦したいことのために働く」社会に変えていきたい
ーー今後の展望を聞かせてください。
大きな話になってしまいますが、私たちは「働くために生きる」のではなく「やりたいことや挑戦したいことのために働く」という世の中に変えたいという気持ちを持ってプロダクトを作っています。
そのためにできることが多様な働き方を企業が選択しやすくすること、言い換えると多様な働き方で構成された組織がパフォームするためのにQudenを活用してもらうことです。。
前提として、日本の労働人口が減少する中で、企業が人材を確保するには「今いる人に辞めないようにすること」と「新しい人を採用し続けること」で、この両方をやらないといけないと考えています。
従業員目線では結婚や親の介護など、ライフステージの変化などがある中それでも働き続けないといけません。そのためリモートワークをはじめ従業員一人ひとりが働き続けやすい働き方のパッケージを企業が用意するのは今後より重要になると考えています。
ーーリモートワークと生産性に関しては、たびたび議論されるようになりましたね。
「リモートワークは生産性が下がる」と考える企業もありますが、生産性を下げているのはリモートワークではなく、従来のコミュニケーション方法をリモートに当てはめていることだと考えています。コミュニケーションそのものにリソースを取られてしまい、やるべきことをやる時間がなくなっているのです。
例えば、ビデオ会議でカレンダーが埋まってしまったり、ビデオ会議で1人しか話していなかったり、チャットに長文のテキストが送られてきたり。「この方法じゃなくてもよいのでは?」と感じた経験をした人は多いと思います。
Qudenはこのようなコミュニケーションの非効率を改善して、リモートワークの生産性を向上し、多様な働き方を広めることができるプロダクトだと考えています。
時短勤務や業務委託、プロジェクト単位の仕事などの多様な働き方が広まれば、好きなときに好きな場所で好きなことをできる人を増やすことができます。人の流動性も上がるので、多様な働き方を認めない企業も淘汰されていくことでしょう。自分の挑戦の幅も広がるし、生きていて楽しくなると思うんですよね。
ーー素晴らしい目標だと思います。定量的な観点での目標はありますか。
IPOを目指しているので、ユーザー数を増やして、グローバルで通用するプロダクトにしたいと思っています。まずは無料で使ってもらい、気に入ってもらえれば有料プランに移行してもらうというPLG(プロダクトレッドグロース)モデルを確立して、ユーザーからシンプルに「Qudenの方がベターだよね」と言ってもらえるようなプロダクトにしていきたいです。
方法にこだわらず、フェーズに合った資金調達を検討してほしい
ーーQudenの成長が楽しみです。最後に、資金調達で悩んでいる起業家に向けてメッセージをお願いします。
私自身も資金調達で悩む起業家の1人ではありますが、シリコンバレーと日本は資金調達環境が異なるのでその違いを踏まえた戦略も大事なのではないかと感じています。ベンチャーキャピタル(未上場のスタートアップ企業に出資する投資会社や投資ファンド)だけではなく、公庫や銀行などからの借り入れによる資金調達も検討すると、視野が広がるのではないでしょうか。
例えば私たちのように、創業初期のピボット(方向転換)の可能性が高い状況では受託案件をこなしながらデットファイナンスを活用するなど、エクイティファイナンスにこだわらないのが大事だと思います。
実際、自治体の特定創業支援等事業(*3)には助けられました。会社設立時の登録免許税が半額になったり、公庫や制度融資の金利が優遇されたりと、メリットが多かったです。
自分たちの状況を考えて、フェーズに合った資金調達を検討してみてください。
*3) 産業競争力強化法基づいて認定された市区町村が創業支援事業のうち経営、財務、人材育成、販路開拓に関する知識の習得が見込まれる創業者等に対して継続的な支援を行う事業
ーーありがとうございました。